ヅカ式宝塚鑑賞日記

小並感千本ノック

『ダディ・ロング・レッグズ』大千秋楽観てきたよ

久しぶりの更新が外部ミュージカルで申し訳ないんですが、宝塚ファンには外部ミュージカルのファンも兼ねてる方が少なくないので、こっちで書きます。

縁あって、『ダディ・ロング・レッグズ 〜あしながおじさんより〜』の、中日劇場での大千秋楽を観る機会に恵まれた。
いわゆる「普通の」ミュージカルをすっ飛ばして、いきなり宝塚を好きになってしまった私にとって、実際の男性が登場するミュージカルというのはとても新鮮。

しかも出演者は坂本真綾氏・井上芳雄氏の二人だけ。
セット転換もなく、舞台上のトランクの移動と、照明の変化だけで、場面の転換を表現する。
奥がジャーヴィスの書斎、手前がジルーシャの生活する空間。
ルーシャから受け取った手紙を、ジャーヴィスは書斎の本棚にピン留めしていく。
手紙はどんどん増えていき、次第にジルーシャからの手紙に取り囲まれるようになるのが、ジルーシャがジャーヴィスの心に占める割合の大きさを表現しているようで、心憎い。
舞台上手の紗の向こうにバンドメンバーがぼんやりと見え、生演奏なのがわかる。

音楽の力が素晴らしい。
出演者が二人だけで、ほぼ歌いっぱなしなので、ずっと二人の歌に集中しなければならない。
しかしそれが苦にならないほど、ぐいぐいと引き寄せる力を持つ旋律、坂本・井上の歌唱力、表現力。
幕開きの一曲目で泣きそうになったし、二人が初めてハモった時は、あまりの美しさに泣いた。

自分が決めた嘘のせいで、ジルーシャに正体と想いを明かせないジャーヴィスを見るのが、辛くて泣けた。
ルーシャが自分の人生を勝ち得ていく様を見るのは、嬉しくて泣けた。
「ダディ」に会いたいと願うジルーシャの切実さが、切なくて泣けた。
最終的に、ハンカチぐっしょぐしょになった。

原作『あしながおじさん』を読んでいる友人たちによると、筋はほぼそのまま(結末に変更が加わっているらしい)。
だが、原作がジルーシャから「あしながおじさん」への手紙を連ねた書簡集の形式を取っているのに対し、この公演ではあしながおじさんジャーヴィスも舞台上に登場するため、ジャーヴィス側の心理も描かれているのが、大きな違いだという。
(私は少女時代に、児童文学をすっ飛ばしてサブカル・ハードボイルドの英才教育を受けて育ってしまったため、『あしながおじさん』ほどのメジャー作品も読んでいないのです……悪しからず。)

これまで、支援する孤児に一片の興味も持たずに来たジャーヴィスが、手紙を通じてジルーシャに興味津々になり、そうなってしまった自分に戸惑う様が、可笑しくてチャーミングで、ロマンチック。
もちろんこれは、ジャーヴィスを演じる井上芳雄氏の演技力・表現力・ご本人の資質によるところが大きいはず。
この役を井上芳雄氏で観られる私たちは、恐らく幸運なのだと思う。
東京・シアタークリエでの公演からリピートしている友人たち曰く、この大千秋楽の公演は特に、顔・声の表情が豊かでコミカルだったらしい。

"強い女"キャラの声と言えばこの方、坂本真綾氏のジルーシャも、ぴったり。
カテコ挨拶で「自分が自分なのかジルーシャなのかわからなくなった」というようなことを仰っていたが、納得の「なり切り」ぷりだった。

「恋で人生/価値観=世界が変わる」というのは、ラブストーリーをラブストーリーたらしめる骨子だが、私はその中でも「いい歳いったオッサンが、それまで確立していた「自分」を小娘に揺さぶられる」、というプロットが大好物である。
なぜ今まで原作・映画・ミュージカルいずれの媒体でも、『あしながおじさん』に引っかからずに来たのか、全くもってわからないのだが、ひとまず人生の(たぶん)前半戦のうちに、巡り会えて良かった。
(ちなみに、私が好きな「小娘に揺さぶられるオッサン」は、手塚治虫の『ブラック・ジャック』や『羊たちの沈黙』シリーズです。英才教育の成果……(^∇^))

また観たいのですが、大千秋楽だったのでリピれません……。
再演してほしいですね。できたらまた、中日劇場で。

ちなみに井上芳雄氏と宝塚の縁を申し上げると、89期・初輝よしや氏の実のお兄様である。
この所縁で、スカイステージの番組「リクエスト・トークDX」で、望海風斗氏が対談相手に指名した人物でもある。
(録画残しとけば良かった……消しちゃいました……。)



2014/04/08追記:参考リンク

井上芳雄×中井美穂 2014新春スペシャル対談☆『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより〜』 | 中井美穂のヅカヅカ行くわよ♪ | サンケイリビング新聞社のエンタメサイト「舞台袖より愛をこめて」

シアタークリエ『ダディ・ロング・レッグズ 〜足ながおじさんより〜』