ヅカ式宝塚鑑賞日記

小並感千本ノック

月組『ラスト・プレイ』

正塚先生好きとしておなじみのわたくしでも、流石にこの作品はクオリティが低いなぁ、と思う。
正塚先生作品全体の2/3くらいをたぶん既に見ているけど、この作品だけ飛び抜けて完成度が低いと思ってしまう。

ひとまず、緩急がとても悪い。
物語もなんだか歯切れが悪い。
あさこさんが苦悩ばかりしていて、彼女らしいカッコよさを堪能できるシーンがあまり無い。
あさこさんのサヨナラ公演なので「通わざるをえなかった」ファンの皆さまが、今もなお正塚作品というだけで拒否反応を示すのも、悲しいけれど無理もない、と思う。

で、なんでだろう、と考えたとき、比較対象として思い浮かぶのは『マジシャンの憂鬱』だ。
月組で、本公演の1幕もの作品で、あさこさんが主演。
『ラスト・プレイ』と対照的に、こちらは正塚先生の大劇場作品の中ではかなり人気が高い。
愛短、マジ鬱、メラコリ辺りが三強だろうか。
ベテランファンの方になると、ここにバロンの末裔なんかも入るだろうか。
個人的にはマリポサも入れたいが、キリがないのでこの辺にして……。

『マジシャンの憂鬱』と聞いて恐らくほとんどのヅカファンが真っ先に思い浮かぶのは、
「僕は好きですよ、貴女」
の台詞でおなじみ、ラストの胸キュンシーンだろう。
クールだが根が温かい男と、まろやかかつ強さを持つ女。
あさかなの持ち味ともぴったり合っていた。

愛短、マジ鬱、メラコリ、バロンの末裔と並べて見るとはっきりわかる。
「名胸キュンシーン」「名ラブシーン」が、作品の代名詞となっている。
個性的で強烈なキャラクターたちが登場し、サスペンス的な要素が枝葉として茂りこそしているが、ラブストーリーが一本の幹として、真ん中をスッと貫いているのだ。

あさこさんのサヨナラを正塚先生で、というのは、『マジシャンの憂鬱』のヒットを受けての決定だったのだろうと思うのだが、今度はかなみさんがいなかった。
『ラスト・プレイ』にも恋愛要素はあるが、前述の人気作ほどの印象は無い。
相手役がトップ娘役ではなかったためか、芝居もショーも、娘一の押し出し方に不自然な遠慮があった。
そのことが、芝居に関しては特に、作品の精細を欠いていた。

やたら男同士の友情の篤さ、主演コンビの絡みの少なさが取り沙汰される正塚先生だが、実はかなり「トップコンビ萌」属性があるように思う。
あるインタビューでも「ラブストーリーであることを前提に物語を作っている」というようなことを語っていた。
尺の短い大劇場作品では特に、物語をまとめやすいラブストーリーが、題材として向いているのだろう。

正塚先生は、ラブストーリー作家。
そのことを、残念ながら逆説的に証明する結果となった作品だと思う。