宙組『翼ある人々』
そうだ、これも既に「伝説の作品」と化しているけれど、そういえば生で観たのであった。
しかもご縁があって、DC初日に。
これもまた夢のように美しくて、なんだか現実味のない、不思議な観劇体験であった。
『星逢一夜』でも触れたけど、オープニングからして美しすぎて泣いた。
美しくたゆたう登場人物たち、流れる光そのもののように現れる伶美うらら。
全体的にオータムカラー〜アースカラーで統一されていて、フランス絵画のような美しさを湛えていた。
ドイツが舞台のお話ですけども……。
うねるような感情の渦に、ひととき、登場人物たちが互いを巻き込み、
再び別の道を行く……ただし、互いに翼を授けて。
悩める青年が成長し、いくばくかの寂寥感と爽やかなラストを迎えるのが、
若々しい印象のまぁ様にぴったりだった。
トップ就任前の、当時のまぁ様だったというのが、より良かったのかもしれない。
トップになってまばゆい力強さが新たな魅力として備わったまぁ様だけど、
この役は当時だからこその魅力が活かされた役だったような気がする。
そしてうらら様。
おったまげるような美しさのポスターをさらに上回る麗しさで、生身で、動く。
久美子先生の美しい舞台に、うらら様の品格ある美貌がとても映えていた。
台詞の外で演技をしなければならない部分が多い役だったけれど、
表情に宿る翳一つ一つで心情を語っていて、ずきずきとこちらの心に沁みてきた。
宙組屈指の実力派が集められていて、キャスティングも素晴らしかったなぁ。
ベートーヴェン(?)の難役を見事に果たしたりんきら、
一気に存在感と色気を増したあっきー、
少女から老女までを演じきったれーれ。
愛ちゃんの突き抜けたお芝居も良かった。
そして何よりおづきさん。
仕事が上手く行かなくなって狂気を帯びながらピアノに向かうシーン、
ブラームスへの嫉妬、自殺を図るシーン、臨終のシーン……。
全てが真に迫っていて恐ろしくて、演じることの凄みを感じた。
観劇後、友人たちと
「久美子先生はおづきさん萌なんだね……」
と語り合ってしまったほど、おづきさんの色を活かし、
おづきさんに全体を包まれるような物語だった。
こういうおづきさんをまた観たい、と思う作品だったのだけれど、
叶うことなくおづきさんは外の世界へ羽ばたいてしまった。
あるいは、この作品があったからこそ、その決断があったのかもしれない。
いろんな人が翼を授かった作品だったのかもしれない。