ヅカ式宝塚鑑賞日記

小並感千本ノック

雪組『Shall we ダンス?』

贔屓休演のムラ版と、贔屓復帰した東宝版。
「版」と呼んで良いと思うほど、全然別の物語みたいだった。

東宝版を見て、やっと物語がスルッと円を描いてつながったような印象を受けた。
アルバートという役は、言外の言、台詞に出ない部分の表情、仕草、佇まいといったものがものを言う比率の高い役だった。
未涼亜希がそういう演技を得意とする役者だったからだ。

言葉の外で、エラのためを思っていることが伝わらないと、ただの「冷たい、酷い、高慢な男」になってしまう。
そして、ムラ版はそうなってしまっていた。
代役の彩凪翔に罪はない。
しかし、アルバートという役があまりにも「未涼亜希が演じること」を大前提として描かれすぎていた。
宝塚のアテ書きシステムの弱点なのかな……。

アルバートが難役であることは、新人公演でその役を演じたのが、主演経験が何度もある彩風咲奈だったことからも察せられる。

作品自体は、ハッピーエンドのハートウォーミングコメディでとても良かった。
音楽が素晴らしくて、銀橋で歌うえりたんを見て、贔屓休演の傷心が癒えたほど。
小柳先生はイケコの愛弟子だけあって、大劇場も持て余すことなく、空間をのびのびと使った演出をされるので見ているこちらもストレスが無い。
えりあゆが初の夫婦役なのも、えりあゆファンとしてはとても嬉しかった。

しかし、しかし、やはりどうしてもこの作品のことを考えると、アルバートというピース、そこにはまるべき演者に依存しすぎた脚本、ひいては宝塚のシステムのことが頭に浮かんでしまって、純粋に作品自体の感想を述べることができない、そんな作品。