ヅカ式宝塚鑑賞日記

小並感千本ノック

月組『STUDIO54』

これは! これはすごい!

サイトー先生がいつもながら頭の中にあるもの全部詰め込んでいて、真ん中はもちろんかなり脇のキャラクターまで美味しいところがあって、なおかつ暗喩や象徴に満ちている!

相変わらず盛りすぎで散らかった印象は否めないけどw、もしかしてサイト―先生、2幕もの上手いね?(⌒▽⌒)

きりまりの持ち味と作品の相性も抜群。

 

作品のテーマはざっくり「嘘と真実」。

 

主人公のホーリーは元小説家志望のパパラッチ。

かつての夢を自分の中でごまかしながら、虚実入り乱れた記事を書き、週刊誌に売っている。

STUDIO54には社会派ジャーナリストであると嘘をついて出入りし、訪れるスターたちのゴシップをいち早くモノにしている。

一方で、育った孤児院で暮らす、自分を慕う少年には、小説家として成功していると嘘をついている。(「真にありたいと思う姿」を見せているという点で、こちらの姿が「真」という捉え方もできる。)

 

ヒロインの女優・ジゼルは、本名ベッキー。名前からして偽っている。

ホーリーとは孤児院時代の幼なじみで、恐らく互いに初恋の相手。

孤児院を出るとき「スターになる!」とホーリーに約束をし、実際にTVで活躍、舞台進出も果たそうとしている、アメリカン・ドリームの体現者になったが、かつて自分がなりたかった「スター」になれているか、疑問につきまとわれている。

 

STUDIO54から出発し、今や全米で人気のロックスター、Z-BOY。

高慢で傲慢な「スター」を演じている彼だが、初めてSTUDIO54を訪れたときの迷子の子犬のような心を抱えつづけている。

 

そもそもからして、タイトルであり物語の舞台となるSTUDIO54というのが実在したディスコで、舞台セットのロゴも実際のものに似せている。

しかしそこで演じられるのは完全な創作物語というところに、サイトー先生のドヤ顔を感じるw

 

偽りまみれだった登場人物たちは、ホーリーとジゼル/ベッキーが再会することで、カードが1枚1枚めくられるように、嘘を真実に変えたり、真実の自分を現したりしていく。

暴かれるSTUDIO54オーナーの脱税。

ホーリーはそれを記事にし、本当に社会派ジャーナリストになった。

 

少年・少女時代、「スター」になることを誓った場所で、再び並び立つホーリーベッキー

「キスして良いわよ」

「キスしてやるよ」

幼い恋心は、20数年の時を経て、揺るがぬ大人の愛として成就した。

 

この公演、なんたって脇がすごい。

STUDIO54のオーナーに、色悪越乃リュウ

Z-BOYみりたんとの少年愛っぽいシーンもあり、サイトー先生盛りすぎです!!! と焦るほど。

 

孤児院のシスターに、あー様。

何も知らないような無垢な女も、全てを知りきった上で何事もないように接する女も、両方演じられるのがあー様のすごいところだなぁ。今回は後者。

 

この他、もりえさんやマギーさん、彩星りおん氏にも大きな役が付いている。

まだかなり下級生だったはずのりょうくんが、にぎやかし要員の脇役とはいえ、かなり出番の多い役を当てられているのがすごい。

白雪さち花氏も、濃いキャラクター2役を演じているけれど、つくづく上手いなぁ。

 

特筆すべきは、タブロイド誌編集長のすーさん。

自らがロックスターのような金髪逆毛で、常に黒の革ジャケットを着ている。

一人称は「オレ」で、コーラはペプシしか飲まず、コカ・コーラを買ってくるとブチ切れる。

よくできている記事に「エクスタシー感じる~」と口に出すところは、デトロイト・メタル・シティの女社長に近いキャラクター。

めちゃくちゃ存在感がある上にやかましくて、キャラクターを構成する要素も、物語の中での必然性においても「過剰」なのだが、浮くことはなく、逆に空気を作り出している。

「過剰」を体現することができ、それにより作品の枠を広げることができるのがすーさんの強みなのだな、とようやく言語化できた。そりゃあ植爺も正塚先生もサイトー先生も重用するわ。

 

そしてさらに何がすごいって、このとき月組、Dancing HeroとHot Fairyで3分割してたってことですよ!

3分割されてなおこの濃さ・厚さ・強さですよ……。

最近の6分割も成功に終わったと言って良いだろうし、ほんと月組っょぃ

 

フィナーレは70~80年代の洋楽ヒットパレード。よくこれノーカットで放送できたね!?

そしてきりやんをロッキーのテーマで登場させたり、やりたい放題です。

オシャレにまとまってはいるけれど。そこはさすがショー作家兼任のサイトー先生だけど。

千秋楽の映像で、特別にフィナーレ2周したのびっくりしたわ。

まりも氏が1回目と2回目でウィッグ変えてきたの流石だったなぁ。

2回目の金髪ボブマジ正義。

 

『風の次郎吉』みたいに、出演者一人ひとり、出演者のファン一人ひとりの心の宝物になった作品なんだろうなぁと思う。

サイトー先生は実力派ジェンヌとの相性が良いのかもしれない。