ヅカ式宝塚鑑賞日記

小並感千本ノック

月組『A-“R”ex』-如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか-

オギーミュージカルめっちゃ難しい!!!

言うても『マラケシュ』とこれしか観てないけど、『マラケシュ』もこれも同じ類の難しさだったから、これたぶんオギーの作風だ!!

 

難しい、というのは「理解に苦しむ」ではなくて「頭を使う」という意味ね。

結末でそれまでの不明点が一気に種明かしされて、「あぁ~なるほどね!! わかった! スッキリ!」っていう爽快感があります。

 

この作品も、序盤は「設定」を理解するので一苦労。

現代の軍服を着た出雲綾さんが、出演者たちに板付きを促している。

あさこさんだけには「あなたは主役だから良いのよ」と甘い。

 

迷彩柄のアーミーテイストお衣装で登場するあさこさんは「この物語の主役」、アレキサンダー大王=アレックス。

現代アレンジなのかと思えば、「当時」のギリシア世界のお衣装で出てくる登場人物もいる。

お衣装にも小物にも古今の事物が入り混じる。

これたぶん「歴史」として現代まで語り継がれてくる中で、各時代の人々の描くイメージが「アレキサンダー大王」を創りあげていて、今私たちが「知っている」「アレキサンダー大王」は、当時実在したアレキサンダー大王そのままではないよ、という解釈だと思うのだけど、どうなのかしら。

「あなたを偉大だと言う人が多いほどあなたは偉大になる」「私たちが本当にここにいるのかどうかさえ、私たちで決められないなんて」みたいに、「人物像」(≒歴史)は言説で作られる、みたいな内容の台詞もあるし。

 

軍服姿の出雲綾さんは、女神アテナであることがわかります。

あさこアレキサンダーが「人類の歴史」という「物語」の「登場人物」であることを本人に説明するアテナ。

この作品において、演劇の舞台監督のように、人類の歴史を導く役割です。

 

セットの上で輝く微笑みを注ぐみほこ氏は、アテナの御遣い・ニケ。

サモトラケのニケ、のニケですね。

翼を持った勝利の女神です。

NIKE」としてスポーツブランドの名前にもなってますね。

彼女は誰に何に対しての勝利を告げに来たのか。

 

アテナには運命の通りに、父王からは帝王として、王妃である母からは父王のようにならないように、側近たちからは「偉大なあなた」として扱われ、複数の他者の期待/思惑に囲まれて育ち、生きてきたアレックス。

豊穣とブドウ酒と酩酊の神であるデュオニソス(=DIO=神なのだ=WRYYYYYYYY)にも「影」としてまとわりつかれ、世をスネきってます。

 

しかし父王が妹の婚礼の場で暗殺されたことから、アレックスの運命が加速し、「筋書き」から逸れて「狂って」いきます。

 

版図を広げ、帝国を拡大させ「大王」になるアレックス。

ですがそれ以上は不要なはずの東方遠征を重ねます。

その度離れていく臣下・兵士たち。

 

走りだした馬は駆け続け、最後には力尽きて斃れる……。

アレックスの遠征をけしかけた母親・幼なじみの思惑を飛び越え、アテナにも手の負えないほど「筋書きから外れた」アレックス。

彼は周囲の人間はおろか、神の思い通りにすらならず、自らの運命を猛スピードで切り拓いていきます。

(たとえそれが、賢明な「正しい」道でなかったとしても。)

 

アレックスを見守るニケの心境にも変化が訪れます。

「彼に翼を与えるつもりが、翼を失っちゃったみたい」

アレックスが「うつむいたまま歩き続ける」のに付いて、ずっと一緒に歩いてきたニケ。

びじゅチューンの「Walking!ニケ」思い出しちゃってスミマセン)

 

インドに達したアレックス。

もはや側近たちも彼の元を離れました。

現地の異民族の娘を旅の慰めとして妻にするアレックス。

ところがその娘はニケでした。

 

もうすぐ死によって自由の旅が始まることをアレックスに教えるニケ。

人々の思い通りにも神々の思い通りにもならず、自らの運命を切り拓いたことへの褒美。

微笑んで、ニケと固く手をつなぐアレックス。光の中、自由の世界へ歩み始めます。

 

「異常」と思えるアレキサンダー大王の行動・人生を、オギー流に解釈し、人間讃歌として仕上げた一作でした。ゴゴゴゴゴ。

序盤のスローテンポも、終盤でBGMと共にスピードアップしていく運命を際立たせるためなんだと思う。

かなあさ版エリザだなとも思いました。いやーよー大人ーしい大王~なんて~