宙組『激情』初演
激情、初めて観ます。
真面目すぎる男が自由すぎる女に恋をしてしまい、結果周囲の人間も女も自分自身も滅ぼしてしまう、ファム・ファタル文学の金字塔のような作品。
原作がそうだから、ではあるんですが、すごいですね、真っ直ぐ真っ直ぐ突き進む、タイトル通り「激情」の物語。
お芝居だけど、ショー並に体感時間短いです。
生と死、愛と血を象徴するような黒・白・赤を基調にしたセット&お衣装に、フラメンコはじめとするスペイン調の暗く激しい音楽が物語の世界観、ヒリヒリする緊迫感を高めます。
えらい前衛的な舞台装置デザインだな、と思ったら、アーティストの日比野克彦氏によるものだったらしい。
音楽は恒様。これが宝塚初仕事だったのかな? この作品で受賞されているそうです。
少年のあどけなさをどことなく残すずんこさんを、軽やかに翻弄する大人の女・おハナ様。
かなり原作のイメージに近いというか、世間一般でいう「カルメン」「悪女」「ファム・ファタル」のイメージ通りです。
しかしカルメンがホセに言う「愛してる」も、ウソではないんだよな。
ただ、その愛によって相手にも自分にも縛られないだけで。
キリスト教社会の中で生真面目に育ってきたホセには、たぶん貞節・貞操の概念がぐっきり強く根付いていたはず。
愛し合っていれば、お互い以外の相手に恋をするなんてありえない、という固定観念があるし、彼の価値観では、それが愛の証なのだ。
そして誰しもその道徳基準に基づいて生きていると信じて疑わない、というか、その道徳基準が通じない相手がいるということにすら考えが及ばない。
ガッチガチの規律ばかりのキリスト教(しかもカトリック)社会の中で生きてきて、さらにガッチガチの規律に縛られた軍隊に入り、恐らくホセはそういう生き方が向いている男だったんだけど、たぶんそんな人生にかすかに疑念も抱いていた(自分の人生に疑問を抱かない現代人はほとんどいない)。
そこに出逢ってしまった自由の風、カルメン。
ホセはカルメンが自分に自由を教えてくれると感じ、「自由」のために自分を縛ってきた規律を破る(具体的に言うと、殺人を犯し、軍から脱走し、ジプシーたちの裏稼業に参加する)。
しかし根が生真面目で、束縛されることも束縛することも無意識に行ってしまうホセは、カルメンへの愛ゆえに彼女と自分を束縛するようになる。
カルメンが自由にしようとすればするほど、作用・反作用の法則のように強まっていく、ホセのカルメンへの束縛・独占欲。
疾駆する苦しい愛が行き着いた先は、ホセによるカルメンの殺害でした。
『カルメン』ってあらすじだけ読むと「何も殺しちまうこたねーだろう」って思うんですが、「もうこうなるしかなかったんだな」と納得させるものがある、圧巻の脚本&演出&演技でした。
ブラボー!
後の組長であるすっしぃさんが、このときまだ中堅でチンピラ役演ってるのが新鮮。
わたるさんのエスカミリオもザ・ラテンの男! って感じでハマってます。
メリメとガルシアの2役を演じたたかこさんは、ガルシアとして死んだ直後にメリメの扮装で出てきて、早変わりすごっ!! てなりました。