ヅカ式宝塚鑑賞日記

小並感千本ノック

専科『オイディプス王』

生けるギリシア彫刻にギリシア悲劇演らせるなんてwww と、演目発表当初は草原ネタになっていた記憶があるのですが、いざ開幕したら内容が内容でToo Heavyで誰もイジれなくなった印象。

 

いやーもう、すごい密度でした。

正直、理事主演でナガハッチまりんみつコマすーるぅって、いくら何でも実力派特濃メンツ集めすぎなのでは!? ってキャスト見ただけでは思ってたんですよ。

おまけに娘1がカチャと来た。

けど違った、あのメンツじゃないと、あの重い演目を支えきれない。

 

あらすじはwikiれば出てくる。

心理学をかじっているオタクには割とおなじみ……のストーリーだと思う……エディプス・コンプレックスの元ネタですのでね。

 

ストーリー&オチを知っていても、実際に演じられるのを見ると、徐々に謎が解き明かされていく過程がゾワゾワして、ひんやりした心持ちになります。

特に、序盤のオイディプスが「先王殺害の犯人を吊るし上げるぞー!」ってドヤ顔で自信満々なのが辛い。

「誇り高いイオカステ」も同様。あらゆるものを見下し嘲笑するような美しさが、終盤にただただ哀しくなる。

 

語り部役の巫女はすーさん。

私本当にこの方が好きで、新しいお役を見るたびに好きなすーさんが増えるんですが、今回も例に漏れず、でした。

張りの強い独特の声をお持ちなので、物語/世界は「言葉」で構成されている、というのが強く印象に刻まれる。

ねっとりした大人の女役が十八番の方だけど、こういう浮世離れしたような役も上手いよなぁ。

 

クレオン役のみつる。

まさかのアゴ割れメイク(⌒▽⌒) いや、単にアゴヒゲなのか……?

宝塚には珍しい、あごにグレーをぼかすメイクで、彼氏のリアリティ更に向上……。

このお話、全員キーパーソンなんですけど、クレオンの出番は最初と最後で、自信満々の絶頂にあるオイディプスと、絶望のどん底に叩き落とされたっていうか転がり落ちたオイディプスという両極端の状況に居合わせるので、象徴的な役柄だなーと思います(いや、全部の役が象徴であり象徴的なんですけれども)。

オイディプスの行く末を決める場面なんか、爽やか好青年のみつるが演じているがゆえに、切なさが胸に痛いです。

 

コリントスの使者・まりんさんも、陽の持ち味が活きていて途中まで超絶陽気なおっさんなんだけど、それだけに事の顛末が判明したときの絶望の落差が激しい。

 

たぶん最難役なのがコマちゃんで、一番最後に出てくる、出来事の全てを知っている人。

自分が知った事実、それに加担してしまった事実が恐ろしすぎて、震えながら世を忍んで暮らしてきたコマちゃん……。

なぜ皆が言いたがらないことを強引に聞き出してしまったのか……周りを巻き込んで不幸にすることまで含めて、オイディプスに与えられた「罰」なのか……。

 

あと、コマちゃんいつものうるうる美貌を封印しての老け役。

ここまで老け役演るのって珍しい? 久しぶり? なのでは?

なんか1789とかシェイクスピアとか、専科入りしてからのお役って若々しい二枚目が多かった印象だから……。

 

カチャはいつも上手いけど今回も名演だったなー。

女役のカチャの方が好き率高いのなんだか申し訳ない気持ちになるけど……。

細長い体型がギリシャ風お衣装に映えるんですわー。

お化粧も工夫しててすごく良かった。ギリシアンメイク?

地中海の遺跡の壁画みたいな面白いアイラインだった。

 

演出もすごく良い。

この題材をこのメンツでこの演出でやろうとした小柳先生も、Goサイン出した劇団もグッジョブグッジョブだわ。

小柳先生はいろいろなことに挑戦して、どんどんやれることを増やしてらっしゃる印象です。

劇団側の期待もあるんだろうけど、それもご本人のアグレッシブさ、意欲的な姿勢があってのことなんだろうなぁ。

そのうちショーデビューもされたりするんではなかろうか。

 

演出で言えば、一応ミュージカルなんですけど、歌が比較的少ないんです。

本当に「歌わずにはいられない」くらい強い心情のところしか歌にしていなくて、だからこそ重くのしかかる。

 

代わりにコロスの重々しいコーラスは随所に使われています。

ずっとひざまずいてるコロスアンサンブル……絶対大変……。

月組宙組の下級生各位、お疲れ様だったね……。

けど、あの世界を形づくる大役を担ったこと、生ける伝説みたいな面々の背中を間近で見られたこと、実になってるんじゃないかなー。

 

最後に。やっぱり轟悠氏はすごい。

あの重厚で暗鬱な世界で、最も重みのある、要石のような存在として君臨している。

あの重たそうなお衣装をもってしてでないと人の形を留めないのではないかとすら思ってしまう、放つエネルギーの強さ。

映像で見てこれだけ緊迫感、迫力を感じるんだから、生で観たらいかほどのものだったことか。

 

1幕で収めて正解ですね。この重たさ、2幕は持たないわ。観客も、たぶん出演者も。