月組『夢の浮橋』
月組には珍しい? 日本もの、しかも平安もの。
まぁ平安ものメイクの月組子各位の美しさたるや!
源氏物語……なんですが、源氏物語は源氏物語でも宇治十帖が原作。
ざっくりとしか知らないんですこの辺……。
人物相関図を傍らに置きながら観ました。
けど流石大野先生ですね、この系図のややこしさを感じさせない編集手腕でした。
大劇場デビューなんだよな~、これ……既に1~2作やって慣れてきた人の作品みたいなこなれ方を感じる。
評判良くなかったと聞いたのだけど、題材が地味というか暗すぎて大劇場向きじゃないのと、その暗さをタカラヅカナイズすることなく暗いまま演出しちゃったからかな~。
舞台芸術としての出来は決して悪くない、というか、良く出来ている方、だと思う。
原作だと薫の君が主人公なんですが、この公演ではあさこさん演じる匂宮が主人公。
幼なじみでライバルの薫の君はきりやん、ヒロインの浮舟はしずくちゃん。
のっけから老後の呆けてしまった光源氏&政治戦略を巡らせる夕霧が出てきて、重暗い雰囲気です。
孫娘を亡くなった紫の上と見間違える光源氏。
この後も匂宮や薫の口から紫の上の名前が上り、死者の影・気配が、作品全体を濃い霧のように包んでいるのを感じます。
作品の中で唯一と言って良い明るい場面は、プレイボーイ・匂宮にかつて口説かれた女房たちが結託して「誰が一番なの!?」と血圧高めに詰め寄る場面。
すー様とかいて、テンション非常に高いというか強めです。
ちょっと尺取りすぎで冗長な印象なのですが、後になるとこの場面の明るさがジェットコースターの最高地点のようなもので、あとずっと暗く転落していくだけだとわかるので、なるほど、上げられるところまで上げたのね、と合点がいく。
そのすぐ後に、匂宮が薫が囲っている浮舟に手を出す、なかなかに情熱的なラブシーン。
薄暗い艶っぽい場面で、前の場面との対比が際立ちます。
息を呑んだのは、そのさらに後の、あいあい演じる小宰相が傀儡の祭? に匂宮を連れ出すところ。
狂気と表裏一体の賑やかさ、呪術的なエネルギーが渦巻く中で、匂宮が鳥居をくぐってしまったときは「あっ、だめ」と思った。
鳥居をくぐった先で見たのは、傀儡人形として操られる光源氏。
それは次の帝となり、人形のように振る舞わなければいけない匂宮の運命を示していました。
一方、残り香で、自分が囲う浮舟が匂宮に手を出されたと気づく薫。
ぱりっとして隙のなかった薫がほころびを見せ、胸中を吐露するシーンはただ切ない。
二人の間で苦しむ浮舟は入水自殺を図り、一命は取り留めるものの、出家してしまいます。
匂宮も自らの運命を受け入れ、帝に即位します。
ラストシーン、黒の着物で黒い階段を上っていく匂宮。
宝塚において「階段を上る」演出って何通りか意味合いがあると思うんですが、このラストシーンが一番近いなと感じたのは、ベルばらフェルマリ編の最後、マリー・アントワネットが断頭台に上っていく階段。
ただただ不吉で、光を呑み込んでしまうような中に一歩一歩上っていくところで、幕。
く、暗い……! しっとりしたものが観たい気分だったのであまり違和感覚えなかったが、こうして書いてみると明:暗=1:9位の割合ですね!?
けどこのくらい暗くて生々しい方が、光源氏の最期にふさわしい感じがあって、シニカルで良いなーなんて思います……。
あさこさんの帯びる熱い翳にも合っていたように思うし。
脇で目を引いた方々を何名か。
あひらんカップル、思い浮かべたことすら無かったけど、良い組み合わせですね……!
あひさんの男っぽさ、蘭ちゃんの少女っぽさ、それぞれがお互いを引き立てあっている。
あひさんがあのまま上に上っていれば、あひらんコンビという世界線もあったのでは……? とまで思ってしまいました。
そういえばあひさんとらんじゅさんって顎のラインとかちょっと似てるよね。それでか。
あー様演じる匂宮の姉・女一の宮が、宮中で個人として生きられる訳がないと匂宮に諭す場面は、あー様の強さ美しさ存在感上手さ、全てが凝縮されていて好きだな~。
私が宝塚観るようになってからのあー様って主人公のお母さん役とか、いわゆる専科・管理職的なお役ばっかりだったから……このくらい出番と見せ場のあるお役が見たかったなー。
平安メイクでもまさおちゃんはるりるりしてて可愛かったです。
みりたんはこの頃既にお化粧がきれいでした。
この作品での実績があったから新源氏物語の企画も通ったんだろうなー。