雪組『銀の狼』全ツ
初演に比べてハコが小さい分、小劇場作品っぽくなっていて、より本来あるべき姿、描かれたものの本質に近づきやすくなっている印象がある。
コムミズ2人とも正塚役者というのも相まって、台詞や歌詞も耳に入りやすい気がする。
(正塚先生の作品が中日や全ツの常連なのは、こういう理由もあるのかもしれない?)
OPは少人数になって、迫力は減ったものの、どういう訳か不気味さが増している。
雪組子の気合だろうか……。
コムさんシルバは「男」度合がものすごく高い。
死の天使のようだったかなめさんに対して、まさに「狼」の切れ味。
漠然とした不安にまとわりつかれているかなめシルバと、失われた過去をアグレッシブに求めさまようコムシルバ、という感じ。
かなめさんのために書かれた物語だとわかっているけれど、コムさんの冷たい刃物のような輝きは、作品の世界観にガッチリハマってるなぁと思う。
まぁしかしシルバのメイクをしたコムさんのお顔の美しいこと。
こんな美しい人が生身の肉体をまとって実在していることにも驚きだし、素顔のほわほわさを知った上で見ると、そのギャップに世界を疑う……。
ミレイユはそもそもが翳を背負った役だけど(娘1がこんなキャラクターなの本当珍しい)、まーちゃんのミレイユは初演の麻乃佳世さんと比べても、明度がめっちゃ低い。
この物語は等しい暗さの闇を抱えた者同士であるゆえに惹かれあうシルバとミレイユの物語だから、闇がより強く濃いコムシルバと同じ暗さの闇を、まーちゃんミレイユもまとったということなのかもしれない。
レイとの友情? 絆? も、コムミズの方が強く精細を放って見える。
コムミズはやおいだけど、かなめゆりは百合だったな……って思った(伝われ)。
ミレイユを連れての逃亡。
「幸せなどはるか昔に奪われた」と共に歌うシルバとミレイユ。
レイに対して語った「同じ理由を持った人間と気持ちが通う 同情じゃなく、な」の台詞がここで活きてくる。
違う場面だけど、ミレイユも「命の理由も見つからぬままに」の歌を歌っていて、本当にこの2人は「同じ理由」を持ち「気持ちが通う」2人なんだな……と……。
あとこのシーンのバロックな刺繍がされた革ジャケットカッコいいよねw
怪我の手当てをさせてくれた農家のセットは、かなりシンプリファイされて、かえってわかりやすくなっている。
やっぱりと言ったらアレだけど、正塚先生って中日や全ツ用にセットを「削る」のが上手い。
ケイさんのジャンルイは、爬虫類的な気持ち悪さがあるw
「私が愛していたことを知っていたか?」のまとわりつき方とか……ノンさんのはDV男っぽい、力で圧する感じだったのに……w 持ち味ってあるんだねーww
追い詰められたミレイユが思わずシルバの名前を呼ぶの、「恋だね!」ってテンション上がった。
笑顔一つなく、押し殺した会話をするばかりの2人だったけど、一緒に森を歩いたり手当てを受ける中で、確実に想いは生まれ深まっていったのだな……。
記憶を取り戻して、妻子の墓参りをするシーンの台詞も奮っている。
「自分で死ねばたかが一つの命だ。
だが死なれてみれば想いはとめどない」
正塚作品アワードやったら、脚本賞は間違いなく『銀の狼』なのでは!? ってくらい、脚本の完成度が高い……! どうしちゃったの、正塚先生w
シルバを「始末」しに来たレイは、ミレイユの撃った銃弾に斃れる。
ここで、ミレイユもシルバと同じ、人殺しの咎を負うことになるのがすごい。
2人がこれから共に歩いていくために必要な「儀式」だったようにも読める。
一方、シルバの本当の名は「ミシェル」。
大天使ミカエルのフランス語読みだ。
刑事トランティニヤンが叫んだ通り、銀の狼は死に、大天使の名を持って生まれ変わった……というのはうがちすぎだろうか。
「朽ち果てるまで俺は生きる。そして君を守る」
「朽ち果てるまで……」
なんだかこうやって、2人のやりとりの軌跡を追っていると、この物語がものすごく深く熱を持ったラブストーリーみたいに見えてきた。
(実際そういう意図で描かれているんだろう。)
ラスト、後ろ姿の2人に黒い紗が掛かってから、ミレイユがミシェルに寄りかかる演出はやはり最&高。
ナウオンでコムさんが述べた「永遠に草原に生えてる2本の木のような2人よね」というコメントは、この2人の有り様を的確にわかりやすく喩えていると思う。
奪われた幸福は戻ってこないけれど、これから2人で歩いていく。
深い森を、あるいは暗い荒野を。
その道程の中で、笑顔を交わすようにもなるかもしれない。
これまた雪組生本当に芝居上手いな! とうなってしまうクオリティなんだけど、特筆すべきはシモーヌのきゃびぃかと。
めっうま!!! やっぱり彼女のお芝居のセンス、過剰すぎないさじ加減は素晴らしいですね。
シルバへの執着の粘度と湿度が高めの、ウザ可愛いシモーヌです。