月組『NOBUNAGA<信長> -下天の夢-』
お芝居の『NOBUNAGA』とショーの『FOREVER LOVE!!』は、それぞれが異なる角度から「トップスター・龍真咲」を表現した2作になっていて、こんなにじっくり「龍真咲」を堪能させてもらって、とっても贅沢だな! という気持ちになる。
NOBUNAGAの幕開けは敦盛。
白装束は、やはり死を表しているのだろうか。
卒業の卒は死の意味。
タカラジェンヌ、トップスターとしての生活を終えるまさおちゃんを送り出す作品であることを、初めに宣言しているのだろうか。
いつもより浅黒いメイクにヒゲのまさおちゃんカッコいいです。
黒さ・男くささはルキーニくらいの度合かな?
フワフワキラキラ妖精さんみたいな役を演じたこともあったけど、卒業公演でこんなに生命力と男性ホルモン強めなお役を演じるの、面白いしまさおちゃんっぽいなって思わせますね。
一代記ものを1幕ものでやるときにありがちな駆け足感を、この作品も避けられずにいて、おまけに回想やら何やらで時系列が10年後、15年後って飛ぶものだから、なかなかについていくのに頭が忙しい。
けれど、そのスピード感が、信長の生き急いでいる感と、まさおちゃんの駆け抜けた感を表現する結果になっているような気がしなくもない。うがちすぎかな?
戦わずにはいられない、独りで走り、進み続けるしかない信長の業めいた宿命が繰り返し語られる。
(真ん中の人の持ち味も、相手役との関係性も全然違うけど、あさこさんのA-"R"ex!にそこんとこが少し似ている。)
冒頭に銀橋で歌われるそんな内容の歌詞に、思わず涙が出た。
信長はこれまで、いろいろなメディアでいろいろな描き方をされてきた人物だけど、この作品の信長はかなり龍真咲というタカラジェンヌに寄せて描かれている。
まさおちゃんが今までしてきたように、独りでいろんなものを背負って、いろんなものを引き受けて、独りで去っていってしまう。
背負う「いろんなもの」には、これまで殺してきた相手、蹴落としてきた相手のことも含まれている。
タカラジェンヌの世界は、競争社会だ。
共に演じる仲間であっても、誰かの出番が増えれば、その分誰かの出番が減る。
龍真咲というタカラジェンヌは、早くから抜擢されてきた華々しい経歴を持つ。
その影で、悔しい思い、苦々しい思いをさせてきた相手もいたことだろう。
彼女たちの手放した「夢」を背負い、その分も輝くこと。
そういう覚悟や使命感を龍真咲は感じさせるし、そういうものを感じさせる信長だった。
信長を裏切ろうとした武将たちが、その背負うものの大きさ、覚悟とスターオーラ(と言って差し支えないと思う)にひれ伏し、恭順を示すシーンは、作品のハイライトになっている。
信長が背負ってきたものを引き受ける覚悟があるのなら、倒せば良い。
龍真咲は、奇抜なファッション、強烈な発言で、破天荒なタカラジェンヌとも評されてきた。
信長の斬新な衣装や、居室の異国情緒とケレン味溢れる調度とが、龍真咲のその側面を表しているのだろう。
これゆえ、龍真咲は、彼女をよく知らない宝塚ファンからは「うつけ者」のように扱われることが多かった。
しかし、ちょっと彼女に興味を持ち、その努力家で、必死で健気でいじらしい部分、そしてトップスターとしての責任感、使命感を知ると、ひれ伏してしまうのだ。
あのシーンの武将たちのように。
演者の個性、組の中でのポジショニングに「寄せて」描かれているのは、信長だけではない。
妻の帰蝶。
ちゃぴの持ち味を活かして、とにかく凛々しく、強い!
いかんせんこの作品の信長さまは独りで駆けていってしまう方だし、帰蝶にとっては故郷の美濃を滅ぼした仇でもあるし、あまりベタベタする夫婦としてのシーンは無い。
けど、繰り返し若かりし日に2人で野掛けしたことを思い出すところは恋する娘役だし、
「信長は私の獲物です!」
って言いつつ光秀・秀吉から信長をかばうシーンは「まさおちゃんの相手役」としてではなく、一人のスターとして並び立つ輝きを放つようになった「愛希れいか」の役にふさわしい。
かちゃるりというスター路線の2人が演じる光秀・秀吉の解釈も、
「信長が背負ってきたものを引き受ける覚悟ができた」
という前向きなものになっている。
明智光秀好きの人には嬉しいんじゃないかなぁというのは友人の言。
次期トップスターとなるたまきさん演じるロルテスが、諸武将たちと共に恭順なワンコと化してしまったのは笑ってしまったけど、彼が贈った船で海外逃亡する信長(実際そういう説もあるそうですね)というのは胸熱だったなぁ。
タカラジェンヌとして「死ぬ」けど(冒頭の敦盛)、まさおちゃんという「人」は、外の世界に船出するのだよなぁ。
うんー、「龍真咲(とその周りの組子たち)」にリンクさせようとするあまり、脚本としてはかなりちらかってしまっているけれど、大野先生のまさおちゃんへの愛とリスペクトをたくさん感じる作品でした。
これぞサヨナラ公演! という感じの。