雪組『凍てついた明日 ボニー&クライドとの邂逅』
オギー作品はフルコンプしたいと思っていて……。
これも良かったです、残酷で鋭利で精緻で、だけどその末に残って立ち現れるものは澄んでいて美しい。
ターグン主演ってくらいしか事前情報入れてなかったんですが、OPの歌がとうこさんで感動しました。
雪組時代のバウで男1&男2だったターとうが、星組でも一緒だったのなかなか良い話なのでは。
OPでは、周囲からのボニー、クライドの印象が語られます。
「周りからはこう見えていた
(けど実際はどうだったのかを、これからこの物語で追っていくよ)」
っていうテーマ付けがはっきりわかって、やっぱり上手いなと唸らされます。
タータンのお姉さんが五峰姐さんなんですが、すごくDNAのつながり感じて良い配役ですね。
後でお兄さんの奥さん役で美穂姐さんも出てきて、粒ぞろい時代の雪組だーッ! って震えます。
短絡的で火花のようなとうこさんジェレミーと、常に穏やかに微笑んでるけど、内面で静かに鬱屈している分タチの悪いクライドがいい対比。
けど、ジェレミーをかばって捕まってたりして、情には篤いんだな……って、一筋縄ではいかないクライドの内面がほどかれていく過程、ゾクゾクする。
幼なじみの保安官助手・テッドとも、嫌味混じりながら和やかな会話をするけれど、別れた後で、テッドは嘆息して
「きっと彼は僕らのもとに戻ってこない」
って言っちゃうくらいわかりやすく漂う、クライドの厭世感。
(知らなかったんですが、これ、かなめさんクライド、キタさんテッドで再演してるんですね……。当て書き感半端ない再演キャストだな……。)
グン様お芝居めっちゃ上手いですね!
小公演でヒロインやるグン様観るの初めてなんです。
自然かつ、繊細な「行間」のあるお芝居がすごく上手い。
元旦那のロイが捕まった話するところや、タバコの火断るところのナチュラルさ、世をスネてる感じがすごく迫真。
クライドの心にしょっちゅう蘇るのは、結ばれなかった昔の恋人・アニスとのやりとり。
農園の娘で、「お堅い」家の子だったんでしょうね。
「俺は君にふさわしくなかった」
「どうしてふさわしいように変わってくれなかったの!?」
と、台詞で畳み掛けて作品の流れを決定的にしていくオギー脚本……心に来る……。
「救いは要らない。欲しいのは真実だ!」
が、この作品の描くクライドの命題なのかな。
救いはないけど、真実を求める旅が始まります。
(後半で出てくる美穂姐さんは敬虔なクリスチャンで、やたら「救い」を強調するという役で、クライドのイズムを強調するいい対比になっています)
ボニーを慰めるキャンディ2つを手に入れるために、「強盗の真似」をするクライド。
元旦那が金庫破りだったと知り離婚したばかりで、自尊心が底をついていたボニーは、クライドの過激だけどおどけた優しさに癒され、かつ、クライドの柔らかいところを見て、包み込んでしまうんですね。
拘留されたクライドの脱獄を、「キャンディのお礼しようと思って」手伝う決意をするボニー。
2人と仲間たちの逃避行が始まります。
ギャング生活の楽しげな演出がかえって胸を締め付けます。
女性キャラクターの衣装は赤~ピンク系で統一されていて、これは蓮っ葉ぽさと血の気の多さの演出なのかなと思った。
ですが楽しい時間は長くは続きません。
世間と仲間内に不穏な空気が拡がりはじめます。
それを象徴するのがシビさんの歌&台詞。
シビさんは世界観を創りますよね……。
シンガー枠だけど、素晴らしい女優だなぁとも思います。
元カノのアニスと同じくらい、クライドの精神世界にしょっちゅう立ち現れるのは、クライドが内面化した「兄さん」。
心の中の「兄さん」と会話するクライドの、心細そうな感じといったら!
このときだけ少年の声に戻るんですよね……。
終盤に差し掛かって、逃避行の旅が詰みだすと、クライド自ら「兄さん」に
「そこにいないのは知ってるんだ」
って言っちゃうのが切ない。
世間にも追われ、仲間も散りだし、内面に築き上げていた依存先も、自分の手で消してしまう。
クライドは、どんどんボニーと「二人きり」になっていく。
互いを愛したい気持ちを伝える
「誰でも良かった。喩えあなたじゃなくても」
「誰でも良かった。でも君だった」
って会話、宝塚史に残る名ロマンス台詞なのでは……?
ジェレミーは帰る場所を見出し、その場所である恋人を守るため、結果としてボニー&クライドを裏切ります。
これにより、二人は完全に二人きりになる。
響く銃弾の雨音。
遺された者たちは、口々に二人について語ります。
傍目には救われなかった二人。
けど、二人にとっての「真実」、お互いの虚ろで柔らかい部分を埋める「愛」を手に入れたことが、ラストの「愛してる……」の歌で示されます。
二人とも全身白のお衣装なのは、婚礼衣装と死に装束を兼ねてるのかな……。
すごく頭と心使って、見応えのある本編に加えて、フィナーレも良い。
真紅タコ足ダルマの娘役勢最高か……。
着崩したスーツでドヤるとうこさんもたまらんし、タータンの大人の男の魅力も堪能できるし、やはりオギー作品は良いな……抜かり無いな……。