ヅカ式宝塚鑑賞日記

小並感千本ノック

月組『春の雪』

そうだ、そういえば私これ生で見てたんだ、と不意に思い出した。
なんかもう「伝説の作品」になってて、
「あーなんかすごかったらしいね! 生で観られた人うらやましいわ〜! って私もだわ〜!!」
みたいな感じ。

宝塚好きになってかなり初めの頃に観たのだけど、たまたま初観劇もハマるきっかけになったのも月組で、
月組の明日海りおさんが主演だから」
ってのが観ようというモチベーションとしてかなり大きかった。それも巡りあわせですね。

そしてここで私は「咲妃みゆ」を「発見」した。
つるりと丸い、珠のような美しいおでこ。
黒目しか見えないほどの黒目がちな目。
ぷるんと花びらのように可憐で小さな唇。
ヨーロッパのおまじないの鈴のように澄みわたった、通る声。
そして何よりも、一瞬で観客を作品世界に閉じ込めてしまう、魔力のような演技力。

一番驚いたのは、剃髪のシーン。
みゆの顔から血の気がなくなっていた。
それはメイクだったかもしれないけれど、「堕胎した女」の生々しいリアリティを感じさせた。
(偶然なのかわからないけれど、私の知っている堕胎を経験した女性は、皆一様に顔色が悪かった。
それを隠すためなのかファンデーションが濃く、それが余計に血色を悪く見せていた。)

明日海りおと咲妃みゆ、2人のミューズを一度に、しかも主演コンビとして手にした生田先生は、本当に前世でどれだけの功徳を積んだのか……。
完璧な美貌に濃い苦悩の翳を湛えるみりたんと、清純でありすぎるがゆえに背徳の気配を濃厚に漂わせるみゆは、この物語にぴったりだった。
生田先生の原作愛ほとばしる、仄暗い中に美しい光の粒がきらめくような、原作の空気をまったく損なわない演出。
長い原作を全く不自然さを感じさせない中で2幕にまとめ、かつ、『豊饒の海』第四部『天人五衰』のエンディングも取り込んだ見事な構成。
宝塚の歴史の中でも、最も美しく、最も宝塚ならではの魅力を活かした作品の一つだと思っている。
(そして、生田先生の現時点での最高傑作だと思っている。これを超えることが生田先生の課題なんじゃないかな……。レバンガ!)

呼吸することも忘れてしまいそうな、圧倒的な美と美意識に、劇場中が満たされていた。
生の舞台の緊張感って、思い出してみてもやっぱり心地よい。

あー、しかしみりたんもみゆもちなつも、今みんな月組におらんのだなー。
トップコンビでさえ限りある時間を生きる宝塚の世界、若手小公演の名キャスティングには、儚さゆえの美しさ、きらめきを感じるなぁ。